AI活用全般

OpenAI Privacy Filterで個人情報を消してからAIに渡す|人事・法務・CS向けの手順と日本の法律での扱い

「これ社外秘だけど、AIに聞いていいのか」で止まる作業を、手元で個人情報を消してから渡す形に変えられます。

使うのはOpenAIが2026年4月22日に公開したPrivacy Filter。

Apache 2.0で無料、ノートパソコンでもブラウザでも動きます。

ただし公式は「匿名化でもコンプライアンスでも安全の保証でもない」と明記。

日本の個人情報保護委員会も、安全管理のためのマスキングは仮名加工情報にならないと示しています。

この記事は個人情報が壁になってAI活用が止まっている人事・法務・CS・総務の担当者向け(ChatGPTやClaudeに業務テキストを貼る場面が想像できれば読めます)。

この記事は公開されている公式資料をまとめたもので、法的助言ではありません。

個人情報の取扱いを判断する際は、社内規程と所管部署、必要なら弁護士や個人情報保護委員会の資料を確認してください。

OpenAI Privacy Filterとは何をするものか

テキストから個人情報だけを拾って、ラベルに置き換えるモデルです。

「山田太郎」を「[NAME]」に、メールアドレスを「[EMAIL]」に。

文章の意味は残したまま、誰のことか分からなくします。

OpenAIが2026年4月22日に公開しました。

配布はGitHubとHugging Faceの公式アカウント。

ライセンスはApache 2.0で、商用利用も改変も再配布もできます。

公式モデルカードから、仕様を並べます。

項目内容
開発元OpenAI
種類個人情報を見つけるための分類モデル(文章生成はしない)
パラメータ合計15億/実際に動くのは5,000万
一度に読める量128,000トークン
検出カテゴリ口座番号・住所・メール・人名・電話番号・URL・日付・シークレットの8種類
ライセンスApache 2.0(商用利用・改変・再配布可)
動作環境ブラウザまたはノートパソコン
直近1か月のダウンロード536,118件(いいね1.72k)

実際に動くのが5,000万パラメータ分だけ、という設計が効いています。

15億の全部を毎回動かすわけではないので、手元のパソコンでも重くならない。

使い方は2通り。

ブラウザで公式デモを開くか、pip install -e . で入れて opf "消したい文章" と打つか。

後者はGPUがなければ --device cpu を足せば動きます。

なぜ人事・法務・CS・総務で効くのか

クラウドのAIに貼れずに止まっていた作業が、前に1ステップ足すだけで動きます。

人事の応募書類、法務の契約書、CSの問い合わせログ、総務の議事録。

どれも個人情報の塊で、丸ごと貼ったら社内ルール違反になる職種です。

手元で個人情報を落としてから、残ったテキストだけをChatGPTやClaudeに渡す。

流れとしては、元データ → 手元でマスキング → ラベル化されたテキスト → クラウドのAI、という順番になります。

この分業自体は新しくありません。

変わったのは、手元で動く無料のツールが文脈で判断できるようになった点です。

従来のルールベースは、メールアドレスのような決まった形は得意でも、「これは人名か会社名か」という判断は苦手でした。

公式が認めている限界はどこか

先に、いちばん大事な一文を置きます。

Privacy Filter is a redaction and data minimization aid, not an anonymization, compliance, or a safety guarantee.

(Privacy Filterは黒塗りとデータ最小化の補助であって、匿名化でも、コンプライアンスでも、安全の保証でもありません)

出典: OpenAI Privacy Filter 公式モデルカード

提供元がみずから線を引いています。

そして、注意すべき分野も名指ししています。

Additional caution is warranted in high-sensitivity settings such as medical, legal, financial, human resources, education, and government workflows.

(医療・法務・金融・人事・教育・行政の業務のような、機微性の高い場面では追加の注意が必要です)

出典: OpenAI Privacy Filter 公式モデルカード

人事と法務が名指しで入っている。この記事の読者にとっては、ど真ん中の警告です。

失敗の型も、モデルカードに列挙されています。

  • 珍しい名前や地域ごとの命名の習慣を見落とす
  • 公的な組織名などを、消さなくていいのに消しすぎる
  • 書式が混ざった文章で、消す範囲の境目がずれる
  • 属性や地域によって精度がばらつく

学習は主に英語で行われ、多言語での頑健性は一部の評価が報告されているだけ、とも書かれています。

ここを読み飛ばして「公式のベンチマークが高いから安全」と進むと、あとで戻ることになります。

日本語では、どこが抜けるのか

公式リポジトリに、日本語の問題がそのまま残っています。

issue #11「Japanese dates are not anonymized(日本語の日付が匿名化されない)」。

2026年4月23日に起票され、この記事を書いている8月5日時点でまだ開いたままです。

報告されている挙動が細かいので、そのまま書きます。

入力の形日付が消えるか
1990-01-02(西暦のハイフン区切り)消える
「誕生日は1990年1月2日」消える
「1990年1月2日生まれです」消えない
「生年月日:1990年1月2日」消えない

同じ日付でも、前後の言葉で結果が変わる。

報告者は、日本語の人名は確実に検出されるとも書いています。

名前は消えるのに、生年月日だけ残る形が起きうるということです。

人事と総務にとって、私はここが一番危ないと見ています。

履歴書や社員名簿の「生年月日:」は、まさに消えないほうの書き方です。

対象のバージョンは v0.1.0。

今後直る可能性はありますが、直ったかどうかは手元で確かめるしかありません。

日本の法律では、マスキングした後のデータをどう扱うのか

ここが実務の分かれ目です。

「個人情報を消したのだから、もう個人情報ではない」と考えると、間違えます。

個人情報保護委員会のFAQに、この論点そのものが載っています。

仮名加工情報の加工基準に基づかずに、個人情報を安全管理措置の一環等としてマスキング等によって仮名化した場合には、仮名加工情報としては扱われません。

出典: 個人情報保護委員会 FAQ(安全管理措置としてのマスキングの扱い)

安全のために名前を伏せただけでは、法律上の仮名加工情報にはならない。

つまり、マスキング後のテキストも個人情報として扱い続ける前提で運用する必要があります。

仮名加工情報と匿名加工情報の違いも、押さえておく価値があります。

仮名加工情報匿名加工情報
加工の程度他の情報と照合しなければ個人を識別できない特定の個人を識別できず、元に戻せない
個人情報にあたるか作成した事業者では原則あたるあたらない
第三者への提供原則できない(委託・事業承継・共同利用は可)本人の同意なくできる
利用目的の変更関連性の範囲を超えた変更ができる制限なし

「ラベルに置き換えたテキストをクラウドのAIに渡す」という行為。

この表のどちら側にも、自動では乗りません。

生成AIについては、個人情報保護委員会が2023年6月2日に注意喚起を出しています。

個人情報を含むプロンプトを入力するときは、定めた利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認すること。

本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入れる場合。

それが応答の出力以外の目的で扱われるなら、特に注意が必要だと示されています。

私の受け取り方はこうです。

Privacy Filterは、渡す情報を減らすための道具。

法的な判断を肩代わりする道具ではない。

人事・法務・CS・総務で、何がどう変わるか

業務止まっていた作業手元で消してから渡した後
人事応募書類・面接メモ・評価コメントをAIに渡せない氏名・住所・電話をラベル化して、評価傾向の分析や面接質問の見直しを依頼
法務契約書・覚書のリスク洗い出しをAIにかけられない担当者名・口座番号をラベル化して、条文の抜け漏れ確認を依頼(高機密案件は人が読む)
CS問い合わせログをAIに分析させられない顧客名・連絡先をラベル化して、要望のカテゴリ分けやクレーム傾向の集計を依頼
総務議事録・文字起こしをAIで要約できない参加者名をラベル化して、要約とやることリストの抽出を依頼

私が最初に試すならCSです。

問い合わせログは書式が安定していて、30件ほど流せば傾向が見えます。

逆に法務は慎重に。名前を消しても、案件の中身から誰の話か分かる文書があります。

公式が「消しすぎ」と「消し漏れ」の両方を失敗の型として挙げているのも、この分野です。

向かないのは、個人を特定したうえで個別対応する業務です。

ラベル化した時点で「誰の」が消えるので、集計・分類・要約のように名前がなくても成立する作業に絞る。

ここを外すと使えません。

非エンジニアが最短で試す5ステップ

  1. ブラウザで公式デモを開く。Hugging Face Spacesの公式デモが無難です。社内で説明するときも「OpenAI公式のデモ」と言えます。ChromeまたはEdgeの最新版を使ってください。詰まりどころ: 古いブラウザだと重い、または動きません
  2. ダミーの文章で挙動を見る。「山田太郎、東京都新宿区、090-1234-5678、yamada@example.com」のような架空のデータから始めます。詰まりどころ: いきなり本物の業務テキストを貼らないこと。何が拾えて何が漏れるかを掴むのが目的です
  3. 自社のサンプルを20〜30件流す。CSなら問い合わせログ、人事なら応募書類の冒頭。詰まりどころ: 「生年月日:」で始まる行は消えない既知の不具合があるので、生年月日を含む文は1件ずつ目視で確認します
  4. 消し漏れと消しすぎをメモに残す。地名が住所として消される、有名企業名が人名として消される、といった型を書き出します。詰まりどころ: ここを飛ばして本番に入ると、後から精度の話で運用が止まります
  5. 情報システム部門に確認する。「個人情報を含むファイルを別のツールに通すこと自体が禁止」という規程がある会社もあります。詰まりどころ: 手元で処理が完結する仕組みでも、未承認のWebアプリに貼る行為が規程違反になる場合があります

3番目と5番目が肝です。

この2つを飛ばした導入は、だいたい途中で止まります。

ChatGPT・Claudeへ渡すときの5ステップ

  1. 元の業務テキストを用意する。問い合わせログ、議事録、契約書の下書きなど。列が決まったCSVは、後の工程がきれいに通ります
  2. マスキングを実行する。氏名・メール・電話・住所がラベルに変わります。日本語の日付は残ることがあるので、ここで結果を一度見ます
  3. ラベル化されたテキストをコピーする。この段階で消し漏れの最終確認をします
  4. ChatGPTまたはClaudeに貼って依頼する。指示文に「ラベルになっている部分は個人情報なので、そのまま扱わず傾向だけ分析して」と添えると、ラベルを人名と誤読されずに済みます
  5. 返ってきた分析を受け取る。AI側は実名を知らないまま、分類や要約は成立します

2番目で必ず目視を挟む。

ここを省くと、生年月日が付いたままクラウドへ飛びます。

他のツールとどう使い分けるか

ツール動く場所料金得意なこと
OpenAI Privacy Filter手元無料(Apache 2.0)自由に書かれた文章の中から、文脈込みで個人情報を拾う
Microsoft Presidio手元無料決まった形式(メール・口座番号など)の検出
Google Cloud DLPクラウド従量課金大量データの処理。ただし外部へ送る前提
Amazon Comprehendクラウド従量課金大量データの処理。ただし外部へ送る前提

手元で完結させたいなら、上2つの併用が現実的です。

フォーム入力やCSVの決まった列はPresidio、議事録や問い合わせ本文のような自由な文章はPrivacy Filter。

どちらも無料なので、併用の費用はかかりません。

料金とライセンスはどうなっているか

モデル本体は無料です。

Apache 2.0なので、商用利用も改変も再配布もできます。

自社のデータで追加学習させて手元用に仕立てることも認められています。

導入の費用面では、これ以上ないくらい軽い条件です。

1つだけ実務的な注意を。

ライセンスと配布元のURLは、社内の記録に残しておくほうが安全です。

公開されたモデルの条件が後から変わる例は、この業界では珍しくありません。

FAQ

Q1. 日本語の業務テキストで使えますか?

使えますが、本番の前に自社のテキストで確かめる工程が要ります。

公式モデルカードは、学習が主に英語で行われ、非英語や非ラテン文字では性能が落ちうると明記しています。

公式リポジトリのissue #11では、日本語の日付が文脈によって消えない不具合が2026年4月23日から開いたままです。

「誕生日は1990年1月2日」は消えるのに、「生年月日:1990年1月2日」は消えません。

20〜30件のサンプルで挙動を確認してから進めてください。

Q2. ChatGPTやClaudeの代わりになりますか?

なりません。

Privacy Filterは個人情報を見つけて置き換えるための分類モデルで、文章を書く機能はありません。

実務では、手元でマスキングしてからChatGPTやClaudeに渡して分析や要約をさせる、という2段構えになります。

Q3. これを通せば法的に問題なくなりますか?

なりません。

公式モデルカードが「匿名化でもコンプライアンスでも安全の保証でもない」と明記しています。

日本の個人情報保護委員会も、仮名加工情報の加工基準に基づかず、安全管理措置の一環としてマスキングした場合は仮名加工情報として扱われないとしています。

つまりラベル化した後のテキストも、個人情報として扱い続ける前提で運用してください。

生成AIへの入力については、定めた利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう、2023年6月2日の注意喚起で示されています。

Q4. 社内で提案するとき、どこから話を進めればいいですか?

公式デモで挙動を見る、自社サンプルで消し漏れと消しすぎの型を掴む、その結果を持って情報システム部門に相談する、という順番が通りやすいです。

「クラウドに送らず手元で前処理する」という構造が伝わると、止まっていた話が動くことがあります。

あわせて、マスキング後も個人情報として扱う前提だという点を先に共有しておくと、後から論点が戻りません。

Q5. 他のツールとどう使い分けますか?

決まった形式のデータ(フォーム入力、列が固定のCSV、メールアドレスや口座番号)はMicrosoft Presidio、自由に書かれた文章(議事録、問い合わせ本文、契約書の下書き)はPrivacy Filterが向きます。

どちらも手元で動いて無料なので、併用しやすい組み合わせです。

外部へ送ってよい業務なら、Google Cloud DLPやAmazon Comprehendも選択肢に入りますが、クラウドへ送る前提である点は変わりません。

参考リンク

このページに出てきた言葉

PII
氏名・住所・メール・電話番号など、組み合わせると個人を特定できる情報の総称
マスキング
文章中の個人情報を「[NAME]」のようなラベルに置き換える処理
Apache 2.0
商用利用・改変・再配布が無料で認められているオープンソースのライセンス
オープンウェイト
AIモデルの中身を公開する配り方。手元に落として動かせる
パラメータ
AIモデルの規模を表す数。実際に動くパラメータは1回の処理で使われる分
トークン
AIが文章を数える単位。日本語ではおおよそ1文字が1〜2トークン
モデルカード
そのAIモデルの性能・用途・限界を開発元がまとめた説明書
issue
GitHub上で不具合や要望を残す仕組み。対応が終わると閉じられる
仮名加工情報
他の情報と照らし合わせなければ個人を特定できないよう加工した情報。作った事業者では原則として個人情報にあたる
匿名加工情報
特定の個人を識別できず、元にも戻せないよう加工した情報。個人情報にはあたらない
安全管理措置
個人データが漏れたり壊れたりしないよう事業者が取る対策。法律上の義務
ルールベース
決まったパターンで文字を引っかける方式。形式が決まったデータに強い
情報システム部門
社内のITとセキュリティを管轄する部署

この記事の免責事項

この記事は情報提供が目的です。

個人情報保護法その他の法令に関する専門的な助言ではありません。

私は弁護士でも個人情報保護士でもなく、資格に基づく助言を行う立場にありません。

マスキングを行っても、加工基準に基づかない限り仮名加工情報にはあたりません。

ラベル化後のデータも個人情報として扱う前提で、社内規程と所管部署の判断を優先してください。

ツールの仕様・ライセンス・不具合の状況は2026年8月5日時点の公式資料にもとづきます。

変更されるため、導入の判断前に一次資料で最新の内容を確認してください。

この記事を利用したことで生じた損害について、当サイトは責任を負いません。

最終的な判断はご自身の責任でお願いします。

この記事を書いた人

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Aisola Lab 運営者

AIツールを使ったコンテンツ制作・リサーチ・WordPress運用を日常的にやっています。自分で動かせるものは実際に触って書き、触っていないものは公式ドキュメントと一次情報をもとに書き分けています。

※この記事の内容は執筆時点のものです。AIは進化が速い分野のため、最新の仕様は公式サイトでご確認ください。

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